法事は生きている私たちのためのもの

法事とは、本来は仏教全般を意味する言葉ですが、先祖や親しい人たちの追善供養のことを法事と呼ぶ習わしが一般的になっています。しかし浄土真宗では、一切の人を必ず救ってくださる阿弥陀仏のお力(本願)があるため、冥土での故人の幸せを祈る必要はありません。

仏教には「回向」(えこう)という考え方があります。自分の功徳を他人に分け与えることを意味しますが、阿弥陀仏は一般の私たちに対して回向を行うことで、すべての人の極楽往生を約束されています。これを「他力回向」と言います。

浄土真宗の法事は、故人の命日を機縁として、そうした阿弥陀仏のお力に感謝し、今ある自分は故人のお陰であることを思い出し、仏法を聞いて心新たにするために執り行われます。つまりこれは、故人のためと言うよりは、私たち生きている者が故人から多くのことを学ぶ機会なのです。

四十九日の意味

仏教では、人が生まれて死に、また新しく生まれ変わるまでの期間を4つに分けて「四有」(しう)と言います。

・生有(しょうう) この世に生まれた瞬間。
・本有(ほんう) 生まれてから死ぬまでの間。
・死有(しう) 死ぬ瞬間。
・中有(ちゅうう) 次に生まれるまでの四十九日間。

中有は「中陰」とも言います。この間に閻魔様の裁きを受けると一般に言われていますが、それは迷信です。本来ここは、他力回向をくださる阿弥陀仏に感謝する期間です。しがたって、四十九日(満中陰)法要が3カ月に渡るとよくないなどの言い伝えは、まったくの俗説で意味がありません。

法事の種類

真宗大谷派では、法事には次の3つがあります。

年忌法要 (ねんきほうよう)
いわゆる法事です。故人を偲び、年忌のご命日に勤められる法要です。 一周忌と、亡くなって2年目にあたる三回忌は、中国の儒家の習慣に由来しています。七回忌は十二支の半分が終わって初めての年、十三回忌も十二支が終わって次の年にあたるという意味があります。
十七回忌は中国の故事に由来し、 二十五回忌は十二支を2巡しての初めての年、 三十三回忌や五十回忌も十二支を基準にしています。このように、中国の思想の影響を受けて伝わった日本仏教の古くからの習わしです。

祥月命日 (しょうつきめいにち)
亡くなった日と同じ月日のことを言います。本来は「正月」と書きましたが、お正月と混同しやすいので「祥月」となりました。
年忌法要以外の祥月命日も、ご自宅やお寺でお勤めするとよいでしょう。

月忌法要 (がっきほうよう)
各月の、亡くなった日と同じ日が月忌です。月忌に住職を呼んで合掌礼拝することを月忌法要、または「月参り」と言います。月忌法要を、仏法を聞いて人生を考える日にしてはいかがでしょう。

法事の準備

法事では、主催者を施主(せしゅ)と呼びます。サンスクリット語が語源ですが、布施を行う人という意味があります。
法事を準備する際には、次のことに気をつけましょう。

日時を決める
祥月命日が望ましいですが、その前後の休日に行っても構いません。日時が決まったら、少なくとも3カ月前にはお寺にご連絡ください。

会場を決める
ご自宅、お寺、または別の会場でも行えます。会場が決まったら、お寺にご連絡ください。

案内状を送る
親近者、友人知人など、故人との関係が深かった人たちに案内状を出します。日時、会場、開始と終了の時間を往復はがきでお知らせし、返事をいただきます。
お斎(法事後の会食)がある場合は、その旨も書いておきます。別の場所で行うときは、その住所や電話番号なども記しておくとよいでしょう。

引き出物の用意
遠方から参列される方のことも考え、かさばらないものがよいでしょう。上書きには「志」と書きます。

その他
参列者の席順もあらかじめ決めておくとよいでしょう。挨拶文も考えておきます。

法事にかかる費用

基本的には、以下の費用をお考えください。

・会場費、会食費(お斎の会場費と飲食代)
・引き出物代
・案内状の印刷代、郵送代
・御布施(住職への謝礼)

法事に参列するときの作法

法事は、故人を偲び、親しい人たちと一堂に集うばかりか、仏法にも巡り合うよい機会となりますので、できるだけ参列するようにしましょう。

案内状の返事を送る際には、何か一言添えると遺族の励みになります。やむなく欠席する場合は、法事の前後の都合のよい日に、「御仏前」を持参してご自宅に訪問し、焼香するとよいでしょう。

参列の際に心がけたい点は、以下のとおりです。

服装
葬儀とは違い、厳格ではありません。男性は礼服、略礼服、紺などの地味なスーツ。女性は黒などの地味なスーツ、ワンピースで構いません。
ただし、三回忌までの法事では略礼服が無難です。

持ち物
念珠(数珠)と「御仏前」は忘れずに。のし袋の表書きは「御仏前」です。他宗では四十九日までは「御霊前」と書きますが、真宗では四十九日の前も「御仏前」となります。
お供え物には、肉や魚など生臭いものは避けましょう。

マナー
時間に遅れないようにしてください。会場に到着したら、お寺の場合はまず、本堂の御本尊にお参りします。
施主に挨拶して「御仏前」を渡し、真宗の仏事にのっとり、法事にのぞみます。

お斎について

仏事の後の会食を「お斎」(おとき)と言います。釈迦仏を囲んで仏弟子たちが食事したことに起源があります。そのため、お斎も仏事に数えられます。

本来は、大乗仏教の殺生を戒める教えに従い、魚介類や肉類を使わない精進料理が基本ですが、私たちの命は、他の生命を食すことで支えられています。そうしたる食事の意義を考え、命の尊さを問い直す縁が、お斎にはあります。