3つの根本経典「浄土三部経」

真宗大谷派は、「浄土三部経」と呼ばれる3つの根本経典としています。これがまさに、法然上人、親鸞聖人の思想の源です。この他、親鸞聖人が説かれた教義をできるだけわりやすくご紹介いたします。

いろいろな宗派が生まれたわけ

仏教の最終目標である成仏(仏陀になること)をどう実現するか、その考え方によって次の3つの宗派ができました。

歴劫成仏(りゃっこうじょうぶつ)
何度も輪廻転生を繰り返し、やっと仏陀になれるという考え。

即身成仏(そくしんじょうぶつ)
この世に生きているままで仏陀になれるという考え(真言密教)。

往生成仏(おうじょうじょうぶつ)
浄土に往生してから修行を積み、仏陀になるという考え(浄土教)

仏教は 経、論、律の3つの聖典(三蔵)から成り立っています。
「経」は、お釈迦様が説いた教え。
「論」は、経の内容を解説した聖典類。
「律」は、仏教の戒律を記した聖典。
このどれを重視するかで、さらに次の3つに分派されました。
律を中心とした宗派では、さらに修行方法によって3つに分かれています。つまり、仏教の修行には、「三学」という基本の修行項目があり、そのどれを重視するかです。三学とは、次の3つです。

戒学(かいがく) 悪を止める行動の規範
定学(じょうがく) 心の平静を得て宗教的な精神統一を行う
慧学(えがく) 真実を悟る

さらに、「仏陀観」あるいは「仏身論」の違いもあります。これは、仏の3つの身のあり方を論ずるもので、そのどれを本尊とするかによって分派しました。三身とは、次の3つです。

法身(ほっしん) 宇宙の絶対的な真理としての存在
報身(ほうじん) 人々に法を説くために現れた存在
応身(おうじん) 人が修行によって悟りを得た存在

各宗派の根本経典とご本尊

日本の伝統仏教とされる十三宗の根本教典とご本尊の一覧表です。

宗 派
成 仏
経・論・律
仏身/三身(本尊)
キーワード
法相宗 論成唯識論
解深密教
釈迦如来(興福寺)
薬師如来(薬師寺)
唯識三年倶舎八年
一水四見
華厳宗 (経)華厳経
(大方広仏華厳経)
十方遍満仏思想
盧舎那仏
大方広仏/五教章
律 宗 (戒)四分律
(戒)十誦律
十方遍満仏思想
盧舎那仏
三聚浄戒
五・八・十・具
天台宗 (経)法華経
大日経
(論)摩訶止観
久遠実成の釈迦仏 三一権実論争
鎌倉仏教への影響
真言宗 即身成仏 (経)密教経典
大日経
金剛頂経
(法身)大日如来 曼荼羅
六大・四曼・三密の原理
融通念仏宗 (経)華厳経
(経)法華経
(経)浄土三部経
十一尊天得如来 常行三昧
融通
浄土宗 往生成仏 (経)浄土三部経 来世仏思想
(報身)阿弥陀如来
大原問答
他力易行
浄土真宗 往生成仏 (経)浄土三部経 来世仏思想
(報身)阿弥陀如来
在家仏教
本願他力
悪人正機
時 宗 (経)浄土三部経
「阿弥陀経」を中心
来世仏思想
(報身)阿弥陀如来
賦算
名号至上主義
日蓮宗 (経)法華経 (応身)久遠実成の釈迦牟尼仏 三大秘法
五義
臨済宗 (律・定) 看話禅
禅問答
曹洞宗 (律・定) 釈迦如来 只管打坐(黙照禅)
修証一如
黄檗宗 念仏禅
黄檗の梵唄

浄土真宗で大切とされている経典「浄土三部経」

浄土真宗が大切にしている経典では、辛い人生を生き抜く人が、念仏の教えによって本当の安らぎの世界(浄土)に生まれることができると説いています。そrは、「浄土三部経」として知られる次の3つの正依(しょうえ)の経典です。

仏説無量寿経 (ふっせつむりょうじゅきょう:大経)
極楽浄土がどのように作られたか、そこに暮らす仏たちの徳を伝え、念仏の重要性を説いたもの。

仏説観無量寿経(ふせつかんむりょうじゅきょう:観経)
浄土に往生するための方法を説いたもの。

仏説阿弥陀経(ふせつあみだきょう:小経)
阿弥陀仏の浄土でのご様子と徳を称えるもの。

親鸞聖人は、なかでも仏説無量寿経がもっとも重要であるとして、「大無量寿経」と呼ばれました。阿弥陀仏がまだ修行中だったころ、四十八の誓い(四十八願)を立てて永遠とも思える時間、修行に励んだ末に誓いを成就し阿弥陀仏となり、極楽浄土を建設されたと書かれています。
四十八願のうち、十八番目の「念仏往生の願」はもっとも大切とされ、この誓いが成就されたために、念仏を唱えるだけで人が極楽往生できるようになったのです。
この経典の最後には、仏法が廃れるときがくるだろうが、この教えだけは長くとどまり、人々を救い続ける、と書かれています。

親鸞聖人ゆかりの書物

浄土三部経のほかにも、親鸞聖人または他の高僧が著した大切な論釈や著述がありあす。もしご興味がおありなら、読んでみてください。

漢文形式で書かれた書物

顕浄土真実教行証文類 (けんじょうどしんじつきょうぎょうしょうもん)
親鸞聖人が書いた浄土真宗の根本教典。「教行信証」(きょうぎょうしんしょう)、「御本書」(ごほんじょ)とも呼ばれています。親鸞聖人は、後世に教えを残すものとして、これを非常に大切に思い、生涯をかけて補訂したと言われています。

浄土文類聚鈔 (じょうどもんるいじゅしょう)
浄土三部経をはじめとする重要な書物の内容を整理したもので、教行信証の理解を助ける書物として重視されています。

愚禿鈔 (ぐとくしょう)
仏教全体の中での浄土真宗の意義を説き、その教えを受ける側の信心について解説しています。

入出二門偈頌文 (にゅうしゅつにもんげじゅもん)
仏教の教えや菩薩の徳を韻文で表現しています。

和文形式で書かれた書物

唯信鈔文意 (ゆいしんしょうもんい)
法然上人門下の聖覚の著書「唯信鈔」の解説書。

尊号真像銘文 (そんごうしんぞうめいもん)
高僧などの肖像画に添えられる徳を称える文(讃文)の意味を解説したもの。

浄土三経往生文類 (じょうどさんきょうおうじょうもんるい)
いわゆる「三経往生」という真宗教義の基本を簡潔に解説したもの。

一念多念証文 (いちねんたねんもんい)
法然上人門下の隆寛律師の著書「一念多念分別事」を親鸞聖人が要約し、一念多念問題を解説しています。

如来二種回向文 (にょらいにしゅえこうもん)
本願力の二種の回向(往相回向、還相回向)について解説したもの。

弥陀如来名号徳 (あみだにょらいみょうごうとく)
阿弥陀仏の12の功徳(十二光)を解説したもの。

三帖和讃 (さんじょうわさん)
「浄土和讃」(じょうどわさん)、 「高僧和讃」(こうそうわさん)、 「正像末和讃」(しょうぞうまつわさん)の3つの和讚の総称。人々が気軽に口にできるよう、詩の形で仏徳を表現したもの。

親鸞聖人の書簡をまとめたもの

親鸞聖人御消息集 (ごしょうそくしゅう)
御消息集 (ごしょうそくしゅう)
末燈鈔 (まっとうしょう)
親鸞聖人血脈文集 (けちみゃくもんじゅう)

親鸞聖人の教えを伝える書物

恵信尼消息 (えんしんにしょうそく)
親鸞聖人の妻、恵信尼が越後から出した8本の手紙をまとめたもの。親鸞聖人の生涯が綴られています。

歎異抄 (たんにしょう)
親鸞聖人の弟子、唯円が、聖人の教えが正しく伝わるように解釈を加えた書。

本願寺聖人伝絵 (ほんがんじしょうにんでんね)
親鸞聖人の遺徳を称えるために善信上人が制作した絵巻物。

御文 (おふみ)
蓮如上人が真宗の教えを平易に解説した書。

「教行信証」と「正信偈」について

「教行信証」は、親鸞聖人が教えを後世に伝えるために1224年、52歳のときに、常陸の稲田草庵(今の茨城県笠間市稲田にある西念寺)で著したものです。聖人はこれを、根本経典としました。

全体の内容

親鸞聖人が選んだ過去の七高僧(龍樹・天親、曇鸞・道綽・善導、源信・源空)の論釈などからの引用を整理し、「仏説無量寿経」に示される教えに基づいて、阿弥陀仏の本願を説きあかしています。

各巻の内容

総序
教巻
これが釈尊の真実の教えであり、人を救えるのは阿弥陀仏の念仏のみであると説いています。

行巻
悟りに至る修行は念仏のみであると説いています。

信巻
阿弥陀仏の本願を疑いなく受けとめなさいと説いています。

証巻
教、行、信によって導かれる涅槃の境地について説いています。

真仏土巻
真実の浄土について解説しています。

化身土巻
方便の浄土について解説しています。

後序

「正信偈」は、「教行信証」の「行巻」の最後に加えられた偈文(仏の徳を称える韻文)です。七言一句で表された60行120の偈文には、教えの要点がまとめられていて、まさに教行信証のエッセンスと言えます。蓮如上人はこれを印刷して門徒に広めました。

真宗を理解するためのキーワード

真宗の特徴を表す言葉がいくつかあります。

浄土 (じょうど)
限りなき光の世界を意味する「無量光明土」(むりょうこうみょうど)です。

往生 (おうじょう)
仏の名のもとに人生を生きる念仏者の姿です。死ぬことではありません。

信心 (しんじん)
「願われ、生かされて」生きていることに気づき、目覚めることです。この目覚めは「聞法」によってのみかないます。むやみに神仏に手を合わせることとは違います。

他力本願
親鸞聖人の言う「自力」とは、努力して煩悩に打ち勝ち、自分で悟って救いを得ようとすることです。「他力」は、自力で努力してもできないことがあることに気づいた人が、自分より大きな力(本願)の働きに救いを求めることです。
明治の清沢満之は、「人事を尽くして天命を待つ」のが自力であるのに対して、「天命に安んじて人事を尽くす」のが他力であると表現しています。
他力本願は、自分に与えられた生き方を尽くすことを意味しており、他人の力をあてにすることではありません。

悪人正機 (説)
「歎異抄」第3章に書かれた「善人なほもて往生をとぐ、いはんや悪人をや」という言葉は大変に有名です。ここで言う善人とは、自力で修行して往生しようとしている人のことであり、「悪人」とは、自力でどんなに努力しても救われ難いと自覚した人のことです。
したがって、「悪人が救われるのだから、善人も自力の心を捨てて他力(阿弥陀如来の本願)にまかせきる気になれば往生できる、と説いているのです。

在家仏教
鎌倉時代には、僧の妻帯は考えられないことでしたが、聖人は、一般の人のように暮らしながら求道者としても生きていけると、妻と結婚することで体現しようとしました。
「一般の人々、特に底辺の人々が救われてこそ真の仏教」という考えを在家仏教と呼び、聖人がそれを確立しました。

同朋 (どうぼう)・同行 (どうぎょう)
平たく言えば「友だち」です。
同朋は、志を同じくする友のことで、同行は、行を同じくする友です。
もとは聖人が、本願を信じ念仏している人びとを御同朋(おんどうぼう)と呼ばれたことから始まったとされています。
聖人のお手紙を集めた「末燈鈔」(まっとうしょう)や、門弟への話が書かれた「歎異抄」、そして蓮如上人の「御文」にも御同朋、御同行という語句が見られます。